介護の「自立支援」とは?介護課長が語る“お世話”との境界線と実践のコツ

おばあちゃんに手を添える

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 良かれと思って手を貸したその介助、もしかしたら、利用者様の「できること」そして「やる気」まで奪ってしまっているかもしれません。

 介護の仕事を始めたばかりの頃、私も「とにかく親切に、全部やってあげることが良いケアだ」と信じていました。

 しかし、それは大きな間違いだったのです。

 この記事では、介護職の最も重要で、最も難しいテーマである「自立支援」とは具体的に何をすることなのか、そして、つい陥りがちな「過剰な介護」との境界線はどこにあるのか、私の経験をもとにお話しします。

目次

介護の目的は「お世話」ではなく「自立支援」

立ち上がりを促す

 まず、私たちの仕事の目的を再確認することから始めましょう。

「してあげる介護」から「待つ介護」へ

 私たちの仕事は、身の回りのことを全て「してあげる」お世話係ではありません。

 本当の目的は、本人様が持っている力を最大限に活かし、たとえ障害があっても、その人らしく、尊厳のある生活を送れるように「支援」することです。

 それは時に、時間がかかっても、本人様が自分でできるまでじっと「待つ」という姿勢を意味します。

何故自立支援が「尊厳」に繋がるのか

 「自分で服を選ぶ」…「自分で箸を使って食べる」…「自分でトイレに行く」…

 一つひとつの選択と行動が、その方の「自分らしさ」を形作り、人間の「尊厳」の根幹を成しています。

 自立支援とは、その方が自身の人生の主人公であり続けるための、私たち専門職にできる最大のお手伝いなのです。

「できること」を奪わないためのアセスメント

ボタンを留めてもらう

 自立支援の出発点は「この人は何ができないか」ではなく「この人は、今、何ができるか」という視点を持つことです。

 そのために不可欠なのが、正確なアセスメント(評価)です。

 「全介助」という言葉で、思考停止してはいけません。

 例えば、着替えを例に取ると「服を腕に通す」ことは難しくても、「最後のボタンを一つだけ留める」ことはできるかもしれません。

 「ズボンを上まで引き上げる」のは大変でも、「ベッドに座った状態で、足を通す」ところまではできるかもしれません。

 私たちは、一つの動作を細かく分析し「どこまでが自身でできて、どこからが支援を必要とするのか」その境界線を、先入観を持たずに丁寧に見極め、本人様と共有する必要があります。

【事例】本人様の意欲を引き出すための声掛けと環境設定

調理を手伝う

 ここでは、私が実際に経験した、自立支援の成功事例をお話しします。

「どうせ無理」という諦めを溶かす「声かけ」

 かつて料理が大好きだったAさんは、脳梗塞を起こし、後遺症により包丁が上手く使えずに自信を失ってから、すっかりその意欲をなくしていました。

 そんなAさんに、私たちは「ご飯を作りましょう」とは言いませんでした。

 代わりに、レシピ本を一緒に見ながら、「Aさん、夜ご飯は何がいいですかね?」「肉じゃがの美味しい作り方を知っていますか?」と尋ねたのです。

 専門家として教えるのではなく、人生の先輩であるAさんに「教えてもらう」という立場で関わる。

 この声かけが、Aさんの「自分にもまだ役割がある」という気持ちを引き出すきっかけとなりました。

思わず身体が動く「環境設定」

 次に私たちが行ったのが、環境設定です。

 Aさんが車椅子に座ったままでも楽に手が伸ばせるように、台所ではなく、リビングの机で調理しました。

 お玉やボウル、包丁やまな板…Aさんがいつでも手に取れる場所に置きました。

 本人様の「やりたい」という気持ちを、物理的な環境が妨げないように先回りして整えることも、私たちの重要な仕事です。

失敗を恐れない「見守る勇気」

歩行につきそう

 自立支援を実践する上で、私たち介護職にとって最も難しいのが、この「見守る勇気」を持つことです。

 時間がかかる、失敗してあとかが漬けが増える、そして何より、転倒などのリスクが怖い。

 だから、つい先回りして手を出してしまう。

 その気持ちは、痛いほどわかります。

 しかし、利用者様が少し服を汚しながらも、自分で最後まで食事を完遂した時の、誇らしげな表情。

 それを、私たちは「成功」と呼ぶべきではないでしょうか。

 自立支援における私たちの役割は、失敗しないように全てを取り除くことではなく、安全が確保された範囲で、本人様が挑戦できる機会を保証することです。

 それこそが、専門職としての「見守る勇気」なのです。

自立支援を支えるための知識と道具

シルバーカーでの歩行

 自立支援の質は、私たちの関わり方だけでなく、知識や道具によっても大きく向上させることができます。

あなたの視点を変える、おすすめの書籍

 自立支援の考え方をさらに深めるために、私が新人時代に読んで衝撃を受けたのが、竹内均さんの『「できること」をさがす』です。

 私たちの役割が「お世話」ではないことを、痛感させられます。

 また、意欲を引き出す声かけの技術については『コーチングの基本』のような本から、多くのヒントを得ました。

「できる」を助ける便利な自助具たち

 自立支援は、便利な道具(自助具)によっても支えられます。

 例えば、麻痺がある方でも衣服のボタンが留めやすくなる『ボタンエイド』や、腰を曲げずに靴下が履ける『ソックスエイド』など、様々な自助具があります。

 利用者様の状態に合わせて、こうした道具の活用を提案することも、立派な自立支援の一つです。

「自立支援」を本気で実践する職場を選ぶ

 最後に、最も重要なこと。

 自立支援は、スタッフ個人の努力だけでなく、施設全体の方針として取り組まれていなければ、決して実践できません。

 「効率」や「回転率」を優先し、スタッフに過剰な介護を強いる職場も、残念ながら存在します。

 もしあなたが、利用者様の「できること」を奪う毎日に心を痛めているなら、介護専門の転職エージェントに相談し、「自立支援」を理念として掲げるだけでなく、実践している優良な施設を探すべきです。

まとめ:介護職の本当の喜びは「手を貸す」ことではなく「手を放す」ことにある

寄り添い笑い合う

 自立支援とは、突き詰めれば、利用者様が私たちの助けを必要としなくなる瞬間を目指す、ということなのかもしれません。

 昨日までできなかったことが、今日、自身の力でできるようになる。

 その瞬間に立ち会い、共に喜ぶこと。

 そして、私たちはそっと「手を放す」こと。

 それこそが、介護職という仕事の、最も深く、大きな喜びなのだと、私は15年間働き続けて、確信しています。

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