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「お昼ご飯は、まだかね?」
「さっき、召し上がったばかりですよ」
(5分後)
「お昼ご飯は、まだかね?」
「…ですから、さっきも言いましたよ!!」
介護現場で、こんなやりとりに、ついイライラしてしまった経験はありませんか?
「また、この話か…」と心が疲れてしまう。
その気持ち、痛いほど分かります。
何度も同じことを聞かれるのは、本当に根気のいることです。
しかし、あなたのその「NG対応」が、更なる悪循環を生んでいるとしたら…
この記事では、その理由と、本人様も、そしてあなた自身も楽になるための、プロの対応技術について解説します。
NG対応:「さっきも言いましたよ」が何故ダメなのか

私たち介護職も人間です。
忙しい時や、心に余裕がない時、つい「さっきも言いましたよ」「もう、忘れちゃったんですか?」といった、強い口調の「事実の指摘」をしてしまいがちです。
「忘れたこと」を自覚させ、不安を煽る
この言葉が何故NGなのか。
それは、本人様にとっては「初めて聞いてる」のに「あなたは、たった今言ったことを忘れたのですよ」と、自身の「失敗」や「記憶障害」を真正面から突きつけられることになるからです。
「忘れてしまった」という事実を突きつけられた本人様の心には、何が残るでしょうか。
それは「自分は、また失敗してしまった」「この人に迷惑をかけてしまった」という、深い自己嫌悪と、強い「不安」です。
何故何度も同じ話をするのか?その心理背景

この「不安」こそが、何度も同じことを聞くという行動の、最大の引き金になっていることを、私たちは知らなければなりません。
①記憶障害(短期記憶の欠落)
まず大前提として、認知症の中核症状である「記憶障害」があります。
本人様は、あなたを困らせようとしているわけでは、決してありません。
新しい出来事を記憶する「短期記憶」が障害されているため、まるで容量がいっぱいになったメモ帳のように、聞いたそばから、その記憶自体が抜け落ちてしまうのです。
本人様にとっては、何度聞いても「初めて聞く」質問なのです。
②不安や焦燥感の現れ
そして、より重要なのが、その言葉の裏に隠された「感情」です。
何度も同じことを聞くという行動は、その質問内容そのものよりも「自分が今、ここにいて大丈夫か」「私は忘れられていないか」という、漠然とした不安や焦燥感の現れであることが非常に多いのです。
- 「お昼ごはんはまだ?」 → (本当の気持ち:自分のことが忘れられていないか不安だ)
- 「息子はいつ来るの?」 → (本当の気持ち:私は一人ぼっちではないか不安だ)
その質問は、本人様なりのSOSサインなのです。
NG対応は、このSOSを否定し、不安を更に増大させるため、結果として本人様は更に不安になり、更に何度も同じことを聞く…という悪循環に陥るのです。
ベストな対応:初めて聞かれたように、笑顔で簡潔に答える

では、どうすれば良いか。
ベストな対応の基本は、驚くほどシンプルです。
それは、何度聞かれても「初めて聞かれたかのように」笑顔で、簡潔に答えることです。
例えば「お昼ご飯はまだ?」と5回目に聞かれたとしても「(笑顔で)お昼ご飯は12時ですよ。もうすぐですね、楽しみですね」と答える。
大切なのは、本人様が求めている「答え(事実)」と、「あなたに受け止めてもらえた(安心感)」を、同時に提供することです。
長い説明は、かえって混乱を招きます。
笑顔で、短く、きっぱりと。
これが鉄則です。
【応用編】不安な気持ちに寄り添うプラスアルファの声かけ

基本の対応に慣れてきたら、プロとして、もう一歩進んだ関わりをしてみましょう。
それは、本人様の「言葉」ではなく、その裏にある「不安」に寄り添う声かけです。
不安な気持ちを、言葉で受け止める
「息子はいつ来るの?」と何度も聞かれた場合…
「(笑顔で)15時にいらっしゃいますよ。〇〇さんが、とても楽しみに待っていらっしゃるのが、私にも伝わってきます。私も楽しみです」
というように、本人様の「待ち遠しい」「会いたい」という気持ちを、こちらが言葉にして受け止めてあげます。
「この人は、私の気持ちを分かってくれた」という安心感が、不安を和らげます。
興味を「今、ここ」に向ける
答えを伝えるだけでなく、その不安から、意識を「今、ここ」にある楽しいことへ逸らす工夫も有効です。
「15時にいらっしゃいますよ。それまで、あそこに飾ってある〇〇さんが活けられたお花を、一緒に観に行きませんか?とても綺麗ですよ」
というように、本人様が得意なことや、好きなことへ、さりげなく話題を転換します。
あなたの学びと心を守るために

ここまでお話ししたことは、介護の「技術」です。
才能や性格ではなく、学べば誰でもできるようになります。
学びを深め、あなたの「引き出し」を増やす
認知症の方の心理を深く理解することは、あなたの対応力を高め、あなた自身の心の余裕にも繋がります。
私が管理職として、職員に強くすすめていたのが、フランスの介護技術である「ユマニチュード(Humanitude)」です。
「見る・話す・触れる・立つ」を基本とするこの技術は、認知症ケアの考え方を根底から変えてくれます。
どうしてもイライラしてしまう、あなたへ
頭では分かっていても、疲れている時や、人手不足で忙しい時に、優しく対応し続けるのは本当に難しいものです。
もし、あなたが「どうしても優しく慣れない」と自分を責めているなら、それはあなたのせいではなく、あなたに余裕を持たせない「職場の環境」に問題があるのかもしれません。
介護職が疲弊しきっている職場では、質の高い認知症ケアは絶対に実現できません。
もし、あなたが心の余裕を失うほど追い詰められているなら、職員一人ひとりの心のケアまで考えてくれる、優良な職場へ転職するという選択肢も、真剣に考えてください。
介護専門の転職エージェントに相談すれば、そうした「認知症ケアに本気で取り組んでいる」施設の情報を得ることができます。
まとめ:対応は「技術」であり、あなたの「優しさ」の証

認知症の方に何度も同じことを聞かれる。
その時、あなたが「さっきも言いましたよ」と事実を突きつけるのではなく、グッと堪え、笑顔で「初めて」のように答える。
それは、単なる「我慢」ではありません。
相手の尊厳を守り、不安を取り除こうとする、あなたの「優しさ」と「専門性」の表れであり、介護のプロとして、最も誇るべき「技術」なのです。

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