介護職の「喀痰吸引等研修」とは?受けるべきか介護課長が判断ポイントを解説

吸引機を持っている介護士

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 日々のケアの中で「もし今、利用者様が痰を詰まらせたら…自分には何もできない」と、無力感や不安を感じたことはありませんか?

 近年、介護福祉士のキャリアを考える上で、一つの大きなテーマとなっているのが「医療的ケア」、その代表格が「喀痰等吸引研修」です。

 この記事では、私自身が「何故この研修を受けなかったのか」という視点と、多くの同僚が受講する姿を見てきた管理職としての視点の両方から、あなたがこの研修を受けるべきかどうかの判断材料を、正直にお話しします。

目次

喀痰吸引等研修で「できる」ようになる医療ケア

医療ケアに悩む介護士

 まず、この研修を修了することで、具体的に何ができるようになるのかを正確に理解しましょう。

 介護職が実施できる「医療ケア」行為は、大きく分けて2つです。

 それは、「喀痰吸引(かくたんきゅういん)」「経管栄養(けいかんえいよう)」です。

喀痰吸引

自身で痰を出すことが難しい方の、口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部に溜まった痰を、吸引機を使って取り除く行為

経管栄養

口から食事を摂ることが難しい方の、胃ろうや腸ろう、経鼻経管栄養のチューブに栄養剤を接続し、注入する行為

 これらは、従来は医師や看護師にしか許されていなかった行為です。

 介護職がこの技術を身につけることは、自身の役割を大きく広げ、より幅広いニーズに応える専門職へと進化することを意味します。

研修の種類(第一〜第三号)とあなたに必要な研修

三本指を立てる介護士

 この研修には、対象者や実施できる行為の範囲によって、大きく分けて3つの種類があります。

第一号研修

対象者:不特定多数の利用者様に対して、全ての行為ができるようになる

研修内容:基本研修(講義50時間+演習)実地研修(全て)

料金:基本研修5〜12万円 実地研修:2〜8万円

第二号研修

対象者:不特定多数の利用者様に対して、気管カニューレ内部の喀痰吸引などを除く基本的な行為のみが可能になる

研修内容:基本研修(講義50時間+演習)実地研修(気管カニューレ内吸引・経鼻経管栄養を除く)

料金:基本研修5〜12万円 実地研修:2〜8万円

第三号研修

対象者:※1.特定の利用者様に対してのみ、その方に必要な行為を実施できるようになる

研修内容:基本研修(講義8時間+演習1時間)※2.実地研修(必要な処置のみ)

料金:基本研修1〜4万円 実地研修:1〜3万円

 ※1.筋萎縮性側索硬化症(ALS)またはこれに類似する神経・菌疾患、筋ジストロフィー、高位頸髄損傷、遷延性意識障害などがあたります。その方に必要なケア(例えば胃ろうなど)だけを学べます。

 対象が限定的なため、研修時間が圧倒的に短く、料金も安価です。

 ※2.重度訪問介護従事者養成研修と併せて受講される場合は、20.5時間となります。

 多くの介護施設で働くスタッフが目指すのは、汎用性の高い第一号または第二号研修。

 自身の職場でどのようなニーズがあるのかを事前に確認することが重要です。

研修終了から資格取得、そして実戦までの全てのステップ

資格を取った介護士

 研修の種類による対象者・できることの違いはわかりました。

 では、実際に喀痰吸引等研修を終えた後はどうすればいいのでしょうか。

 特に、介護福祉士の資格を持っているかどうかで手続きが少し変わるため、非常に混乱しやすいポイントです。

 研修を終えてから実際に喀痰吸引などの行為ができるようになるまでには、大きく分けて3つのステップがあります。一つずつ確実に進めていきましょう。

STEP1:研修機関から「修了証明書」を受け取る

 まず、研修を全て修了すると、受講した研修機関(スクールなど)から「研修修了証明書」が交付されます。

  • これはあくまで「研修を終えた」ことの証明書です
  • この証明書だけでは、まだ喀痰吸引などの行為はできません
  • 次のステップである、都道府県への申請に必ず必要となる大切な書類です

STEP2:「認定証」の申請と交付|都道府県への手続き

 修了証明書を受け取ったら、次にお住まいの都道府県に対して資格の認定申請を行います。この手続きを経て、ようやく公的な資格として認められます。

 ここで、介護福祉士の資格を持っているかどうかで、必要な手続きや受け取る証明書の種類が変わります。

介護福祉士の資格が無い方

  • 手続き:都道府県に申請し、「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受けます。
  • これがあなたの資格証となり、これをもって特定の行為が実施可能となります。

介護福祉士の資格を持っている方

  • 手続き:以下のいずれかの手続きを行います。
    1. 介護福祉士でない方と同様に「認定特定行為業務従事者認定証」の交付申請をする。
    2. 社会福祉振興・試験センターに申請し、お持ちの「介護福祉士登録証」に研修を修了した旨を追記してもらう(附記)。
  • どちらの方法でもケアは実施できますが、多くの場合、登録証への追記(附記)が推奨されます。これにより、介護福祉士としての資格と一体で管理できます。

実務者研修終了者、介護福祉士なら知っておきたい「研修免除」のルール

 実務者研修終了者、介護福祉士の方の中には、研修の一部または全部が免除されるケースがあります。

実務者研修終了者

 実務者研修のカリキュラムの中に「医療的ケア」の講義と演習が含まれています。

 そのため、基本研修は免除。実地研修のみ受講が必要となります。

介護福祉士の資格保有

 介護福祉士の資格保有者に関しては、2015年度より前に取得したのかどうかによって変わってきます。

2015年より前に介護福祉士を取得した

基本研修と実地研修の両方の受講が必要

2015年以降

実地研修のみ受講が必要

 上記に該当しない方は、基本研修と実地研修の両方の受講が必要です。

STEP3:勤務先での準備|登録事業者と医師の指示

 無事に都道府県から認定証や追記済みの登録証が交付されても、すぐにケアができるわけではありません。最後に、勤務先で2つの条件をクリアする必要があります。

  1. 勤務先が都道府県に登録特定行為事業者」(介護福祉士以外のスタッフにより喀痰吸引などを行う事業者)あるいは「登録喀痰吸引等事業者」(介護福祉士により喀痰吸引などを行う事業者)として登録されている必要があります。もし登録されていない場合、例えあなたが資格を持っていても、その職場で喀痰吸引などの行為を行うことは法律で禁じられています。
  2. 医師の指示のもとに行うこと喀痰吸引や経管栄養は医療行為です。必ず、利用者様ごとの医師の指示書に基づいて実施しなければなりません。個人の判断で行うことは絶対にできません。

 上記1と2が揃って、初めて利用者様へ研修で学んだケアを実践することができます。

 また、介護福祉士、介護福祉士以外のスタッフ、両者が行う場合は、両方の登録事業者となる必要があります。

受講するメリットと、覚悟すべきデメリット

給料が上がった介護士

 キャリアアップに繋がる一方で、相応の覚悟も求められるのがこの研修です。

メリット:給与アップと転職市場での価値向上

 受講する最大のメリットは、専門性と市場価値の向上です。

 施設によっては、数千円から一万円程度の資格手当が支給され、給与アップに直結します。

 また、喀痰吸引ができる介護福祉士は、医療依存度の高い利用者様が多い施設や、訪問看護の現場で非常に重宝されるため、転職の際に圧倒的に有利になります。

デメリット:増大する「責任」と「精神的負担」

 一方で、忘れてはならないのが、その行為に伴う「責任」の重さです。

 喀痰吸引や経管栄養は、一歩間違えれば命に関わる重大な行為です。

 常に緊張感を持ち、冷静な判断を下さなければならない精神的な負担は、決して小さくありません。

 「自分にできることが増える」ということは、それだけ「自分が負うべき責任が増える」ということなのだと、覚悟しておく必要があります。

【体験談】私が研修を受けなかった理由・受けた同僚の話

戦略を立てる介護士

 ここで、私自身の話をさせてください。

 私は、この研修を受講しませんでした。そして、受講してキャリアを切り拓いた同僚も見てきました。

何故私は研修を受けなかったのか

 私が受けなかったのは、当時、医療的ケアは看護師が担うという明確な役割分担があったからです。

 緊急時は介護でも行える方がいい、という流れにシフトしていく途中でした。

 ですが、私自身がその技術を習得するよりも、ユニットリーダーとしてチーム全体のケアの質を向上させることや、認知症ケアの専門性を深めることに、自分の時間と労力を集中すべきだと判断したからです。

 これは、組織における自分の役割を考えた上での、戦略的な「選択」でした。

研修を受けた同僚たちの、その後のキャリア

 一方で、研修を受けたある同僚は、施設内で医療的ケアが必要な方のキーパーソンとなり、看護師との連携の中心を担う、替えの効かない存在になりました。

 彼は、自身の専門性に大きな自信を持ち、仕事のやりがいが格段に増したと話していたのが印象に残っています。

 その後、彼はそのスキルを武器に、より専門性の高い医療療養型の施設への転職に活かしていました。

あなたが研修を受けるべきか、最終的な判断ポイント

ポイントを抑える介護士

 私と同僚の例のように、この研修を受けるべきかどうかは、その人のキャリアプランや働く環境によって答えが変わります。

研修への第一歩:スクールを探すには

 もし、あなたが「受講したい」と決意したなら、次はその一歩を踏み出す番です。

 喀痰吸引等研修は、各都道府県の登録研修機関で受講できます。

 費用やスケジュールを比較検討するためには、まずは「シカトル」のような無料の一括資料請求サイトで、お住まいの地域で開講しているスクールを探してみるのが最も効率的です。

資格を活かす職場へ:転職という選択肢

 この資格の価値が最も発揮されるのは、転職の場面かもしれません。

 喀痰吸引ができる介護福祉士は、医療依存度の高い利用者様が多い施設や、訪問介護の現場で非常に重宝されます。

 あなたのスキルアップを正当に評価し給与や待遇に反映してくれる職場は必ずあります。

 研修修了を機に、マイナビ介護職のような転職エージェントに相談し、あなたの専門性を最大限に活かせるキャリアの可能性を探ってみることをおすすめします。

まとめ:喀痰吸引等研修は、あなたの「覚悟」を問う資格

覚悟を問う介護士

 喀痰吸引等研修は、単なるスキルアップのための資格ではありません。

 それは、介護職の枠を超え、医療的ケアという重い責任を担う「覚悟」を、あなた自身に問う研修です。

 あなたの職場で本当に必要とされているか。

 あなたの目指すキャリアの方向性と合っているか。

 そして何より、あなた自身がその責任を負う覚悟があるか。

 この記事が、あなたが後悔のない決断を下すための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

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