認知症の「物盗られ妄想」は否定しない!!家族と職員の正しい対応とは

ハートを作る介護士

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 「私の財布を盗んだのは、あなたでしょう!!」

 「いつもここに来るあなたが、取ったに違いない…」

 介護をしている中で、信頼していたはずの利用者様や家族様から、突然そんな物盗られ妄想をぶつけられたら、ショックで悲しくて、そして「私は盗ってない!!」と声を大にして否定したくなりますよね。

 その辛いお気持ち、痛いほど分かります。

 しかし、その「否定」こそが、状況を悪化させてしまう最大のNG対応なのです。

目次

「盗ってない!!」の否定が妄想を悪化させる理由

財布を探している利用者

 何故、否定してはいけないのでしょうか。

 それは、認知症の本人様にとって「財布が盗まれた」という認識は、妄想ではなく100%の「現実」であり「真実」だからです。

 その揺るぎない「現実」を、あなたが「盗ってない」「忘れただけでしょ」と否定することは、本人様からすれば「あなたは間違っている」と、自分の存在そのものを攻撃されたのと同じように感じられます。

 否定された本人様は「この人は分かってくれない」「嘘をついて私を騙そうとしている」と、介護者であるあなたを「敵」とみなし、不安と興奮をさらに強めます。

 その結果、妄想はより強固なものとなり、信頼関係は完全に崩れてしまうのです。

物盗られ妄想の背景にある「不安」や「孤立感」を理解する

不安な利用者

 では、何故本人様は、そのような「現実」を見てしまうのでしょうか。

 その言葉の裏には、本人様が抱える、言葉にできないほどの深い不安や孤立感が隠されています。

記憶障害と「心の防衛反応」

 物盗られ妄想の根底には、認知症の中核症状である「記憶障害」があります。

 「自分でどこかに置いた」という記憶そのものが、抜け落ちてしまっているのです。

 しかし「自分が忘れた」という事実を認めることは「自分がおかしくなってしまった」という、耐え難い恐怖と向き合うことになります。

 その恐怖から心を守るための防衛反応として「私ではなく、誰かが盗んだから無いのだ」と、無意識のうちに原因を外に作り出してしまう。

 これが物盗られ妄想のメカニズムです。

何故、一番身近な人が疑われるのか

 そして、物盗られ妄想の矛先は、皮肉なことに、毎日お世話をしている家族や、一番親身になっている職員など、最も身近な人に向かいがちです。

 それは、その人こそが、本人様の世界の中で「最も重要で、頼りにしている存在」だからに他なりません。

 頼りにしているからこそ、その不安が投影されやすいのです。

【対応の3ステップ】①傾聴・共感⇨②一緒に探す⇨③環境調整

一緒に探す介護士

 妄想の背景にある「不安」を理解したら、私たちの対応は自ずと決まってきます。

 「犯人探し」や「説得」ではなく、「不安な気持ちに寄り添う」ことです。

ステップ①:傾聴・共感(まず、気持ちを受け止める)

 本人様の「盗られた」という言葉を否定せず、まずはその「大変だ」「困った」という感情に100%の共感を示します。

  • NG対応:「盗ってませんよ」「どこかに忘れたんでしょ」
  • ベスト対応:「(驚いた表情で)えっ、それは大変です!」「大切な〇〇が無くなって、さぞご心配ですよね、不安ですよね」

 この第一声で、あなたは「敵」ではなく「一緒に心配してくれる味方」になることができます。

ステップ②:一緒に行動する(探す)

 「味方」になったら、次はその不安を解消するための行動を「一緒に」起こします。

 「私でよければ、一緒に探すのを手伝わせてください。いつも、どの辺りに置かれていますか?」

 と、本人様に主導権を持っていただきながら、私たちはサポート役として一緒に探します。

 この「一緒に探す」という行動そのものが、本人様の不安を和らげる、何よりのケアになります。

 もし、職員が置き場所が分かっていたとしても「私が見つけました!!」と言うのはNGです。

 「あ、〇〇さん、もしかして、あのカバンの中ではないですか?」と、本人様に「発見」していただくように導くのが、プロの技術です。

ステップ③:環境調整(再発を予防する)

 妄想が落ち着いたら、再発を予防するための「環境調整」を考えます。

 「探し物が多発する」ということは、本人様に取って「管理しにくい環境」であるサインです。

  • 定位置を決める:財布や鍵など、大切なものを置く場所を、ご本人と一緒に決めます。(例:目立つ色のトレイを置く、など)
  • 環境をシンプルにする:物が溢れていると、混乱しやすくなります。ご本人の尊厳を傷つけないよう、相談しながら、身の回りを整理整頓します。

家族様へどう説明し、連携するか

家族に寄り添う利用者

 この問題で最も心を痛めているのは、家族から「泥棒」と呼ばれてしまった、他の家族様かもしれません。

 私たち介護職の重要な役割は、家族様を孤立させないことです。

「病気の症状です」と、家族様を責めない

 まずは、家族様(例:お嫁さん)に対して「お義母さんからあんな風に言われて、本当にお辛いですよね」と、その気持ちに共感します。

 その上で「あれは、お義母さんの本心ではなく、短期記憶と不安からくる『病気の症状』の一つなんです」と、客観的な事実を伝えます。

 家族様を「被害者」から「私たち専門職と同じ、認知症と向き合うパートナー」へと導きます。

対応方法を「チーム」で統一する

 その上で、ステップ②で解説した対応方法を家族と共有します。

 「次にもし言われたら、決して否定せず『大変ね、一緒に探そう』と、私たちと同じ対応をしてみてください」と、具体的な武器をお渡しします。

 家族様と施設が、対応を統一すること(チームケア)が、本人様を最も早く安心させることに繋がります。

あなたの心と学びを守るために

自分を守る介護士

 物盗られ妄想への対応は、非常に高い専門性と、精神的なタフさが求められる、介護職の腕の見せ所です。

知識は、あなたの心を軽くするお守り

 何故、この対応がベストなのか。

 その理論的な背景を学ぶことは、あなたの自信となり、心の余裕につながります。

 私が管理職として、職員に強くすすめていたのが、認知症の方の心理を、本人様の視点で分かりやすく解説した『マンガでわかる!認知症の人の気持ちがよくわかる本』のような入門書です。

 知識は、あなたの心を軽くするお守りになります。

疲弊しきってしまう前に、環境を見直す勇気を

 しかし、あなたがどれだけ学んでも、職場の同僚が対応方法を学ぼうとせず、いまだに利用者様を否定したり、妄想への対応をあなた一人に押し付けたりする環境ならば、あなたの心は疲れ、擦り減ってしまいます。

 認知症ケアへの理解がない職場で働き続けることは、あなたにとって大きなリスクです。

 限界を感じたら、介護専門の転職エージェントに相談してください。

 認知症ケアの研修に力を入れ、職員全員で対応を統一しようと努力している、専門性の高い「ホワイトな職場」は必ず存在します。

まとめ:妄想は「敵」ではなく、その人を深く理解する「鍵」

鍵を大事にする介護士

 認知症の方の「物盗られ妄想」は、私たち介護職や家族を困らせる「敵」ではありません。

 それは、その方が今、どれほど「不安」で「孤立」しているかを、わたしたちに必死に伝えようとしている「SOSサイン」であり、その方を深く理解するための「鍵」なのです。

 否定という壁でそのSOSを跳ね返すのではなく、共感という橋を架け、不安な心に寄り添うこと。

 それこそが、介護のプロにしかできない、最も尊い仕事だと私は思います。

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